家族をつなぐ美術

2018/6/9Sat.-6/24Sun.

家族をつなぐ美術

熊坂兌子・SAHL SWARZ・熊坂満・加山四郎

1月15日(火)と1月21日(月)は休館

開館時間
11:00-18:00

一般500円 小中学生200円
視覚障害者及付添い各300円

 
 

「家族をつなぐ美術」に寄せて

熊坂兌子くまさかなおこさんがご家族の作品とともに自作をまとめて発表されるという。新作のコラージュにも挑まれていると聞いた。ひとことお祝いの言葉を寄せたいと思います。

彫刻家としての熊坂さんの存在感は、藤沢市民会館前の広場に設置された白大理石の大作 <PEACE>(1995年)で誰もが認めるところです。
近年では目黒の現代彫刻美術館での個展(2010年)が記憶に鮮烈です。でも、いかなる才能も自分以外の才能に叱陀激励されて育つのです。それがよりいっそう身近な家族であれば、その感化は、ときに激しい反発も含めて決定的なものであるにちがいありません。今回の展示の冒頭を飾る油彩の婦人像。熊坂さんのお母様をモデルに兄(熊坂さんの伯父)の加山四郎が描いた、岸田劉生らの草土社の作風を想起させる昭和初期の佳作です。その雰囲気は、未来の彫刻家を育んだ家庭の文化の質を物語っています。お父様の熊坂満さんも、画家として独自のスタイルに最後に到達します。

初期は、石井柏亭などの堅実な写実の流れのなかにありますが、やがて大胆に単純化された色彩と形態と構図に個性的な画境への探求を開始します。娘である熊坂さんを、やはり画家になって欲しかったのでしょうか、パレットを持つ姿で意図的に平面図を描いています。ニューヨークで出会い、イタリアと日本で生活をともにしてサール・シュワッツさんは、完成度の高い彫塑の技術に裏打ちされた果敢な実験精神の持ち主でした。熊坂さんを写実的に表現した多色彫刻のテラコッタは前者の、そしてアルミニウムなどを素材とする抽象彫刻は後者の典型的な作例といってよいでしょう。「家族をつなぐ美術」その環のなかでこそ、「熊坂党子」という優れた彫刻家の資質は、曇りなく鮮やかに顕現したのです。本展覧会は、そのことをまざまざと教えてくれるに違いありません。

2018年5月
水沢 勉(美術評論家/神奈川県立近代美術館長)